雪峰 番外編:日野浦司さんを訪ねて その弐

yas1031

2006年11月06日 00:35

三条の街だけ時間が止まったように手で金槌を振るって
赤くなった鉄を叩いて鍛えているイメージが有ったのですが
やはりそんなことは無く既に20年以上も前に自動化、機械化の
波があったそうです。一時はサラリーマンも経験した日野浦さんが
三代目を継ぐと意思を固め、自分がどのようにこの仕事をやっていくか
と思案する際、やはりかなり葛藤があったそうです。

周りは今更そんな手で刃物を作るなんてナンセンスだ、、とか
効率が悪くて儲かるわけないだろう、、自分の代で潰すつもりか?
という声があったそうです。
しかし修行の為に刃物の産地を周り、様々な方法でご自分で
検証された結果、機械加工では手打ちのクオリティーに到達出来ない
域があると実感し、そしてその事が日野浦さんがこの道で
やっていこうという意思を固め、同時にモチベーションになって
いるという事を聞きました。

「私は150mmなら150mmで10本作れば10本その寸法にする事は
できるのです。しかし、同時に人間の作るモノだから一本一本に
表情があり少しずつ違う。それがまた手作りの良さなのです。」

「プレスやNC※でやれば、寸分違わず同じ物が出来るのは解っている。
しかしそういう物には、私は心を奪われなかった」

そうおっしゃっていました。

※NC:Numerical control 直訳すると数値制御。コンピューターでプログラムを作り、機械がそのプログラム通りに動き任意の形状を作成する。

ここで私は日野浦さんに自分がNCで物を作る事を生業にしている事を
打ち明けました。ただ同時に私も下地として手作業で物づくりをしてきた
経緯があり、手で物を削ったり磨いたり切ったりして来たからこそ
遠隔で動く「刃物」の気持ちを考え(全然まだまだですが)適正な
負荷や仕上がりをイメージして物を作っている事を伝えました。

NCの動作制御は1000分の1。でも日野浦さんは、ある意味その先の
域で仕事をしている、、そう感じました。

日野浦さんの歩んで来た道は、「じゃあ私も」と簡単に出来る道では
無く”その人だからこそ”という部分やカラーを持ち、それをキープ
し続けてきたからこそ自らの存在意義を出すことができ、存続してこれたのは明白です。細くて厳しいタイトロープの上を歩いて来た人ならではの
厳しさと優しさがお話の随所に感じ取れました。
モノを作る方法は違えど、そういった仕事への熱や思いは
今回、私にとって買い物以上の財産となりました。

企業にとっては必ず付きまとうコストという物。
それは勿論、日野浦さんにとってもあります。
しかし「優先順位」が違う。食っていけないでは困る。
でもそれ以前に自分の納得したモノを作りたい。
そういったPRIDE、、生き方と言っても過言では無いと思いますが
それを強く感じました。文字にするのは簡単ですが
これは相当の決意と覚悟が必要だったことと思いました。


現在日野浦さんは三代目味方屋としての仕事と、もうひとつ司作という
ブランドを持っています。二つの違いは、通常の仕事が味方屋、納期に
とらわれず気の済むまでこだわったモノづくりに徹した司作という感じだ
そうです。司作のナイフも見せていただきましたが、何枚もの鋼を重ね合わせて作られたその刃物は美しい何重もの波模様が出ていて思わず息を飲みました。

そのクオリティーゆえ日本だけではなくヨーロッパ各国からも展示会からの
誘いがあるそうです。会場に着いて見ると見渡すと周りはメーカーばかりで
個人単位で来ていたのは自分だけの事もあったそうです。
そんな中でもドイツ、ゾーリンゲン地方やヘンケル社などからもお呼びが掛かるとの事。 ゾーリンゲンもかつては手作業で良質な刃物を産出していたのですが、工業化の波と共にやがて「本物」の数はどんどん無くなって来たと現地の人から聞かされたそうです。



~つづきます~ 次回は鉈、質問~購入編です。


人気blogランキングへ


あなたにおススメの記事
関連記事